
もうすぐ夏が来ますね。
夏の食べ物といえばアイス、すいか、かき氷!
ここで質問です。
あなたは夏だけでなく年中氷を食べますか?もしくは食べたくなりますか?
もしかしたらそれは貧血のサインかもしれません。

「治療をすると氷が美味しくなくなるんです。」
これは貧血を心配して来院された患者さんの一言です。
この方は貧血になるとどうにも氷が食べたくなるそうです。
理由を聞くと
「だって氷が美味しいんです」とおっしゃいます。
しかし、
「治療をすると氷が美味しくなくなるんです。」
とも。
貧血が進むと氷が美味しく感じ、改善されると美味しくなくなる。
これはどうしてなのでしょうか?
氷食症

氷をたくさん食べることを氷食症と言います。
氷食症は異食症の一種とされています。
異食症とは本来食べるべきものではないものを食べるという疾患で、土を食べたり釘を食べたりします。
鉄欠乏性貧血の時は異食症(ほとんどは氷食症)になり、氷を好んで食べます。
ただし、なぜ氷を食べたくなるのかまだ2019年の時点でははっきり証明はされていません。
氷を食べたくなる理由についての仮説は以下の5つです。
①硬いものを噛むという行為が好まれるから
②味覚障害の一種であるから
③体温を下げたいから
④脳の変化が起きているから
⑤舌の温度を下げたいから
これらの仮説について順に考えていきます。
①硬いものを噛むという行為が好まれるから
氷をバリバリと噛んで食べている行為から、硬いものを噛むことが好きなのではないかと考えられます。
他の患者さんでも、バリバリ食べてスーッと消える氷が心地よいという話がありました。
しかし、氷の硬さに近いものではおせんべいや、軟骨などが比較的近いと思われますが、それらを食べる鉄欠乏性貧血の患者さんの報告は見当たりませんでした。
また、以前ネズミの実験で、貧血のネズミたちは氷を舐めて水分を補給していました。
噛み砕きません。
したがって、氷の硬さに惹かれて氷を食べるということは考えにくいわけです。
②味覚障害の一種であるから
氷がなんらかの味を出しているのかもしれませんが、舌の上で溶けたら一瞬で水になってしまいます。
味覚異常を起こすことで有名な亜鉛欠乏症に鉄欠乏性貧血も伴う割合は10%にしかなりません。また、鉄剤と亜鉛両方とも内服することによって治療すると味覚の回復は46%、亜鉛単独では41.9%改善しました。
その差(=鉄単独で改善する確率)は約4%とかなり小さいので、おおむね味覚異常を起こしている原因は鉄欠乏症ではなさそうです。従って味覚異常は氷食症の原因ではないと思われます。
③体温を下げたいから
たしかに氷を食べると首やいろいろなところの温度が下がります。
しかし、氷食症の方の例では氷を食べていると最終的に体が冷え切ってしまって暖房をつけなければならなくなるようです。
また、冬季に氷を食べるのは体も冷え性になっていてさらに冷たくするのでかなり辛いようです。
したがって、体を冷やすために氷を食べる訳ではないということになります。
④脳の変化が起きているから
チロシンヒドロキシラーゼの補酵素である鉄が不足して脳の中でドパミンが減少することがあります。
ドパミンが減少することによりなんらかの症状がでることがあります。
同じように脳内の変化が起きて氷の嗜好性が増えているのかもしれませんが、なぜ氷でないといけないのかを証明することはとても難しいことです。
⑤舌の温度を下げたいから
かなり珍しい病気ではありますが、Plummer-Vinson(プランマービンソン)症候群という病気があります。
鉄欠乏性貧血、嚥下困難、舌炎の3つが主な症状です。
このプランマービンソン症候群では、貧血のために舌が平滑かつ赤くなり萎縮します。そしてこの舌は灼熱感を持つことがあります。
この灼熱感を冷やすために氷を大量に口に入れるのではないでしょうか。
プランマービンソンの症状の1つが鉄欠乏性貧血ですが、鉄欠乏性貧血における氷食症はプランマービンソン症候群の症状に似ているのではないかと思うのです。
つまり、氷食症はプランマービンソン症候群の他の型もしくは前段階の状態であると考えればしっくりきます。
したがって、氷食症は舌の灼熱感を冷やすためにおこるものと考えられます。

まだまだ氷食症の原因は完全に解明されている訳ではありませんが、
氷を山のように食べるようになったら貧血である可能性がとても高くなります。
貧血の疑いがある場合は医療機関で調べるとよいかもしれません。
稲毛区 小中台クリニック
院長 池田雄次