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そもそも痰とは一体何のためにあるのでしょうか?

 

気道には杯細胞という細胞があり、気道がカラカラに干からびないように常に粘液を分泌しています。この粘液は気道に入ってきたホコリなどを取り込みます。そして、繊毛細胞という細胞にある動く毛によって、粘液が少しずつ出口へ向かってかき出されます。

 

風邪をひいて気道に感染が起きると、細菌やウイルスが入り込んできます。そして組織を壊してしまいます。炎症が激しくなると細胞からは粘液が多く分泌されます。炎症が激しくなると白血球の出番となり、細菌やウイルスを攻撃します。もし最初の攻撃でそのまま白血球が勝ってしまったら、風邪を引きかけたのにすぐに治ってしまったような感覚になるでしょう。白血球がなかなか相手を倒せなくて戦いが長引くとお互いの死骸が粘液の中に溜まっていきます。溜まった粘液が多くなると咳が出て、外へ一気に飛ばします。これが「痰」です。

 

痰の色について

 

昔から鉄さび色の痰では肺炎球菌による感染が多いとか、緑色の痰では緑膿菌が多いとか言われていました。しかし、慢性気管支炎の患者さんの痰の色についての研究によると、細菌感染があるかどうかは痰の色ではあまり区別できないようです。もちろん、無色の痰では細菌感染が起きている可能性は低いのですが、無色でも2割くらいは細菌が検出されます。緑色の痰では6割、黄色い痰では4.5割、鉄さび色では4割くらいの割合で原因となる細菌が検出されます。

 

 傷口に感染すると緑の膿を作るから緑膿菌って名前がつけられたのですが、緑膿菌は痰では特別緑色になるというわけではありません。 

 

血痰について

 

血痰は文字通り血の混じった痰のことです。出血する理由によって心配する必要があるかどうかが決まります。

まずは一時的な血痰かどうか。一時的に咽頭が切れたり鼻血がでたりして、それが痰に混じるだけなら心配いりません。多くの場合、数回ほど痰に血が混じってそのあと出なくなります。

 

血痰が続いている場合は喉以外の病気でないかを確かめるために胸部レントゲンを撮影しなければなりません。ただし、一般外来で血痰が数回以上続くことは非常に稀です。

 

僕のクリニックでは以前に血痰が出るということでレントゲンを撮ったところ、左の肺門部(はいの入り口付近のこと)に3センチほどの丸い陰影があり大学病院に紹介したことがあります。その時は全くそんな影があるとは予想もしていなかったので、非常に驚いた記憶があります。最終診断は悪性リンパ腫となり、その後化学療法が行われたと報告を受けました。それ以来血痰と聞くととりあえずは胸部レントゲンを撮って怪しい影がないかどうかを確認するようにしています。

他には喉頭がんでも血痰が出てくることがあるので、肺に異常がない時で血痰が続くようなら耳鼻科クリニックに紹介して咽頭をカメラで確認してもらっています。

 

痰の出る病気

 

痰の病気で一番多いのは気管支炎です。これは本当に多いですね。二番目に多いのは副鼻腔炎です。この二つの病気の痰は、細菌性であったとしてもドレナージ(痰を外に出す)だけで治ってしまうことが多いです。

 

ウイルスでない場合、抗生物質はいらないことが多いです。ただし、3日以上発熱するなどして痰がどんどん黄色くなっているような時は気管支炎がこじれているので、抗生物質を使うことがあります。

 

三番目に遭遇するのは肺炎です。これはレントゲンを撮らないとわかりません。昔呼吸器内科で議論したことがありますが、やはり聴診だけで肺炎を診断するのは非常に難しいです。また、胸部レントゲンでもわからないような肺炎もあります。横隔膜の裏側、心臓の裏側など注意深くレントゲンを観察してもどうしてもわからない時があります。呼吸回数、発熱、採血、喀痰培養検査、抗体の迅速検査などを総合的に判断しないとなりません。ここでもっとも重要な指標は発熱です。無熱肺炎は非常に稀です。また、咳のない肺炎もありますがこれも非常に稀です。

 

気管支拡張症という病気が昔ありました。もちろん現在もあるのですが、これは肺炎などを、抗生物質を使わずに治療し、気道が破壊されたまま後遺症として残ってしまった病気です。最近は、抗生物質を使った治療により肺はほぼ元どおりに治るので、肺炎からこの病気に発展しなくなってきました。いずれ絶滅するでしょう。しかし、未だ残存しているこの病気は、痰がとても出やすいです。気道が破壊されているので、繊毛細胞が痰をかき出す能力がなくなり痰がどんどん蓄積してしまうのです。

 

肺がんで痰が出てくることはあるかもしれません。が、現在の肺がんの半分は肺腺がんと言って症状の出にくいガンです。痰が最初に見つかりにくい病気になっています。

また、心不全が悪化しても、痰が出てくることがあります。水分が多くなりすぎて痰の量が増えるからです。

 

痰には2種類ある。

 

一つは肺が原因で痰が出てくる場合です。肺の奥底から上がってくる痰なのでこれはなんとかしなければなりません。肺炎の可能性がある時は抗生物質の点滴や内服が必要になります。また、気管支炎でもたんが出てくることがあります。その場合は痰をなるべく外に出すように咳を止めてはいけません。

 

もう一つは鼻水が喉の奥に落ちて後鼻漏という痰になり、喉に落ちていくものです。鼻水が由来なので多くの場合は抗生物質が不要です。この場合は鼻水を投薬などで少し減らすと、痰が減りやすくなります。

 

この2種類の痰は明確に分けて治療にあたる必要があります。

 

咳止め、鼻水止め、痰を切る薬の組み合わせはよく考えなければなりません。