やけどもすり傷もキレイに治る?!~湿潤治療~

かつて傷の治療は、消毒してガーゼを被せるというものでした。

しかし、じゅくじゅくした傷にガーゼをのせると傷とガーゼがくっついてしまいます。

そのため、ガーゼを交換するたびに傷にくっついたガーゼをはがすので出血して痛みました。

最終的にはなんとか治るのですが、治療に長い時間と痛みが伴っていました。

 

1996年頃、夏井睦先生により「キズヤケドは消毒しない/乾かさない」という治療(湿潤療法)が提唱されました。

初めてその治療法を聞いた時には半信半疑でしたが、実際の治療症例をいくつも画像で見て驚きました。

ものの数日で擦り傷がきれいなピンク色の皮膚になり回復していたのです。

それを見て当院でも湿潤療法を取り入れることにしました。

<やけどの症例1>

最初に湿潤治療の効果を実感したのは、両腕と上半身に火傷を負った患者さんを診たときでした。

両手の甲に皮膚が剥がれた潰瘍(皮膚がなくえぐれた状態)が何箇所もあり、その上に壊死物質が乗っていました。

また、胸から脇の下にかけて、火傷で皮膚が失われていました。

 

その方は当院に来る前、消毒をしガーゼで覆うだけの治療を受けていたそうです。しかしなかなか改善しないためインターネットで調べたところ、火傷には湿潤治療が効果的であると知り、当院のHPにたどり着き来院されたのです。

 

湿潤治療を開始すると皮膚がみるみるきれいに上がってきました。壊死物質も取り除いてさらに治療を継続し上皮化が終了したところで治療を終了しました。

当院に来る前は皮膚移植も提案されていたそうですが、湿潤治療だけで治療が終了しました。

 

<やけどの症例2>

交通事故でスネにキズができた患者さんです。転倒した時にバイクのマフラーがスネに当たり火傷を起こしました。


2週間ほど整形外科にかかっていましたが、その後通院しなかったら壊死物質と膿が混じった傷になってしまいました。


事故から1ヶ月後に当院に来院し、治療を開始して6ヶ月ほどかかってようやく皮膚が修復しました。

1枚目来院初日です。

壊死と膿が混在しています。

こんな状況ですが、すでに怪我をしてから1ヶ月ほど経過しているため、痛みはあまりありません

治療開始後7日目です。

壊死と膿を取り除き湿潤治療継続中です。

最初はアルギン酸(綿のような素材)を使いました。まだまだ浸出液(組織や細胞から滲み出る液)が多いですね。

治療開始後42日目です。

だいぶ周辺が盛り上がってきました。

ポリウレタン吸水性フォーム(水を即座に吸収する物質)に変更しています。

 

治療開始後146日目です。

ほぼ周辺が上皮化が進んでいます。

治療開始後176日目です。

ようやく上皮化が終了しました。まだ皮膚がもろいので強い力がかかると皮膚が破けてしまうことがあり注意が必要ですが、通院治療は不要のため自宅で経過観察を行うことになりました。

 

やけどの跡ってどれくらい残るの?

「やけどはその後どのくらい跡になって残るのか」という質問をよく受けます。


深いやけどの場合

皮膚が陥没するほどのやけどになった場合はくぼんだ痕跡が残る可能性があります。

浅いやけどの場合

色素沈着がわずかに残ることがあります。また、皮膚の細胞の流れがやけどの部分だけ島状になっていることがありますが、よく見ないとわからないレベルになります。

以下にやけどの湿潤治療をした後、5年経過した症例を提示します。

<院長の左手のやけどの経過>

エアバックが開いた時の火薬の爆発で受傷しました。

4日目です。熱が届いた一番深いところまで皮膚がやられています。

すでに上に乗っていた皮膚は剥がれてしまっています。

この当時はワセリンとラップで治療していました。

浸出液(組織や細胞から浸み出した液体)のコントロールが悪く周囲がふやけています。

5年後です。

わずかに色素沈着を残しています。

ほとんど気になりません。

以前はやけどにワセリンを塗ってラップを巻いたこともありましたが、傷から出てくる水分の処理と調整がなかなか難しく上皮化(欠損した皮膚や粘膜が再び上皮や表皮で覆われること)するのに時間がかかりました。


現在当院ではポリウレタン吸水性フォーム(水を即座に吸収する物質)を主に使っており、ラップはほとんど使っていません。

吸水性がちょうど良くて浸出液(組織や細胞から滲み出た液体)の多いやけどにはとても効果的です。


湿潤療法って何?

体から出てくる物質には皮膚と皮下組織を修復させる力があります。

その物質がきちんと働くためには乾燥させない湿潤環境が必要です。

湿潤療法とはその湿潤環境を利用して行う治療法です。


乾燥させてしまうとその修復のための成分が乾いて働けなくなってしまいます。

結果として傷の治癒が遅くなります。

湿潤治療の方法

①まずは傷をきれいに洗う。

②浸み出してくる液の量を予想する。

③浸み出してくる液が少なければハイドロコロイド(とろける絆創膏:市販されているものではキズパワーパッド)を使う

④浸み出してくる液が多ければ二次治癒親水性ゲル化創傷被覆材(市販はされていません)を使う。

⑤浸み出してくる液の量が少なくなったらハイドロコロイドに変える。

⑥皮膚が完成するまで毎日もしくは2日に1回、被覆材を交換し続ける。


湿潤療法の効果

擦り傷は治癒までに1週間ほどかかりますが、ヒリヒリとした痛みは湿潤治療をすると2日以内に無くなります。

火傷だとヒリヒリとした痛みが引くまでにもう少し時間が必要です。

火傷の深さにもよりますが5日くらいかかります。


傷が深ければ深いほど治るまでに時間がかかります。場所によっても治るまでの時間が全然違います。

上半身は治りが早いのですが、下半身は治りが遅くなります

特にスネ、アキレス腱、などの傷は治癒までに2ヶ月くらいかかります。

一方、顔面の擦り傷などは3、4日でおおむね改善します。

やけどで水ぶくれができた時

やけどで水ぶくれが起きることがあります。

その場合、水ぶくれの中身を注射器で吸い出します。

そのままガーゼ付き防水テープなどでカバーします。


そしてまた水がたまってきたら注射器で吸い出すことを繰り返しているうちにやけどが治ってきます。

水ぶくれの皮膚はやけどが治る時には剥がれてしまいますが、やけどの直後は取り除きません。

どんな被覆材よりも水ぶくれの皮膚の方が肌に無害で優秀だからです。

しかし、途中で水ぶくれの皮膚が剥がれてしまった場合は湿潤治療に変更します。

キズパワーパッドで治療した場合

キズパワーパッドで治療していて、すでに傷が治りかけている方が来院されることもあります。

その場合はそのままの治療を自宅で継続していただきますが、

時に傷の上に膿がたまっている場合や、剥がれにくい壊死物質が着いている場合があります。


キズパワーパッドを何日も交換していない時などは特に膿がたまりやすくなります。

膿がたまっている場合は細菌が増殖している可能性があります。

そのまま放置していると皮膚の下に細菌が入り込み、最悪の場合は全身に細菌が回ってしまいます。

それを防ぐためにも膿がたまっている場合は当院では抗生物質の投与を行います。


また、剥がれにくい壊死物質は傷の修復を妨げるので切除が必要です。

壊死物質が皮膚を再生することは絶対にありません。

しかも、ハサミで切りとらないと簡単には取れません。

壊死物質を剥がす時は結構痛みます。

状況によっては一回で全部とり切れない時もあります。壊死物質を自分で取るのは難しいです。

ですので、もし何か取れにくい白〜黒っぽい色の物質が傷にのっていたら来院してください。


まとめ

湿潤治療はきちんとした知識を持って治療をしていればどんどん傷が修復されます。

ただし、不安な時や治りが悪い時などは当院に来院していただけましたらと思います。

小中台クリニック 院長 池田雄次