Fever outpatient発熱外来

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どんな時に血圧の左右差が生じるの? 

高血圧について

(2019年6月9日加筆)
「左右の腕で血圧の値が違うんですけど、どうしてですか?」という質問を受けました。
この方の右腕の血圧は160/100mmHgで、左腕の血圧が120/100mmHgでした。

左右の血圧 の差が10mmHg以内ならば正常値とみなされます。
しかし、それが40mmHgも違うというのは滅多に見られないほど大きな左右差です。

血管は密閉空間ですが、『密閉空間の中の圧力はどこも一緒である』というパスカルの原理は成立していません。
血管が細くなると、血流が極端に悪くなり圧力が下がる場合があるからです。
今回のケースの血圧の左右差が起きている理由としてどこかの血管が細くなっている可能性が考えられます。

まず、どこの血管が細くなっているかを調べるため、聴診器で変な音がする場所を探しました。
注意深く聴診器をあてていくと…
「ザーッザーッ」という音が左の頸部から聞こえてきました。

この変な音を、血管雑音と言います。
血管雑音は、血管が細くなったり捻れたりすると聞こえます。
この血管雑音により、左腕に向かう血管のどこかが細くなっていることがわかりました。

そこで、この患者さんを循環器内科(心臓専門の内科)の病院に紹介したところ、次の画像とともに検査結果が返ってきました。

この画像は心臓を後ろ側から見ている画像です。
AとBはどちらも心臓から出る血管の一部です。
Aの血管とBの血管、どちらが狭いでしょうか?

答えはBです。

「ここ」と書かれたところがかなり狭くなっています。
そこの血管は左腕に血液を送っています。
ここが細くなっているので左腕の血圧が上がらないのです。

ただ、今のところ左腕の力が入らなくなるようなことはないので、この血管を広げる必要はないという診断でした。
そして血圧の治療は右腕の血圧の値で評価していくという方針になりました。

ところで「B」の血管が細いので「B」で血栓ができる可能性があります。
一般的に、血栓ができるとそれが飛んで血管を詰まらせて脳梗塞や心筋梗塞を起こす場合があります。
しかし「B」の血管は脳や心臓へ向かっていく血管ではないので、この症例の場合は脳梗塞や心筋梗塞になる心配はありません。

血管が狭くなると血圧の左右差が生じます。
以下に血圧の左右差が生じた時に考えられる疾患を提示します。

《動脈硬化症》
血圧の左右差が生じる原因の疾患の中では最多です。
糖尿病、高血圧、喫煙、肥満などに関連しています。
そして、特に左右差に関与しているのは肥満と低HDL血症という報告があります。
運動、食事療法も並行しながら必要に応じて脂質異常症、高血圧、糖尿病の治療を積極的にすべきです。

今回の患者さんの血圧の左右差の原因は高血圧による動脈硬化と考えられます。

《高安動脈炎》
かつて大動脈炎症候群と呼ばれた疾患です。
大動脈以外の動脈も炎症を起こすことがわかって高安動脈炎と名称が変更されました。
さらにその昔(私が研修医の頃)は「脈なし病」と言われていました。

動脈に原因不明の炎症が起きて、動脈自体が狭くなったり動脈の壁が厚くなったりする疾患です。
あちこちの血管に起きるのですが、腕の血管が狭くなると脈が触れなくなるほど血圧が下がる場合もあります。

左右ともに炎症を起こしますが、炎症の程度は左右で違う場合があり、血圧の左右差を引き起こします。
副腎皮質ステロイドホルモンや免疫抑制剤などで血管の炎症を改善できます。

《大動脈解離》
大動脈の壁が裂ける疾患です。
血管が裂ける時に大動脈から枝分かれしている腕に向かう血管を塞いでしまう場合があります。
非常に危険な疾患なので早急に治療が必要です。

このように血圧には左右差が生じる場合があります。
そして左右差がある時には、動脈硬化など基礎疾患が隠れている可能性があります。

血圧に左右差が生じている場合には、基礎疾患を見つけるためにも医療機関を受診してきちんと検査を受けることをお勧めします。